White Noiz

諸々。

原稿用紙

バンダースナッチ-あとがき

この「バンダースナッチ」という作品は、2019の夏コミで「創作集団スター・ボード」より頒布された「怪盗三題話」へ上津響也名義で寄稿した作品です。 今回のお題は「怪盗」「レトロ」「吹奏楽部」の3つのキーワードを作品の中に入れることでした。 しかし、…

バンダースナッチ (4)

別に忘れてたってわけじゃないんだけどな―― 弘美は、先ほど球場の片隅で見つけた発煙筒の一本を握りしめて思っている。発煙筒には油性ペンで書かれた汚い字が踊っている。 『怪盗バンダースナッチ参上!』 まさか、五色の鈴緒とバンダースナッチが、全く別の…

バンダースナッチ (3)

周一は自転車を全力で漕いで、庚申堂へと向かっていた。 人使い荒過ぎだっつの―― 心の中で悪態をつきながら、必死にママチャリのペダルを漕ぐ。 周一が気絶から目を覚ますと、不機嫌な顔の克基と、心配そうに周一を覗き込む千聖の姿があった。周囲は公園。一…

バンダースナッチ (2)

弘美は、電話口で兄の浩平に克基に言われた通りのことを話した。 「ふぅん、群青色の鈴緒ねぇ」 「どう?心当たりはある?」 弘美と浩平の家は、代々平橋市にある天平八大龍王社の宮司だ。現在、弘美の父が宮司を務めており、浩平はそれを継ぐための修行の真…

バンダースナッチ (1)

「来ル七月十日、高等学校野球選手権県大会ニ於イテ、御校、平橋高等学校ト、対戦校、桜帝高等学校ノ試合ヲ、頂戴仕る。怪盗バンダースナッチ」 平橋高校の生徒会室に届けられた手紙には、そう書かれてあった。 奇妙な老人だった。 真っ白になった髪を無造作…

お茶の間宇宙戦艦「帝釈天」

「コタツっつーもんがあるわけよ」 その男はコタツで緑茶をすすりながらそう言った。「炬燵って書いて『コタツ』って読むんだけどね。知ってる?」 男の年齢はよくわからない。今どき時代錯誤も甚だしい整髪料をべったりとつけたサイドバック。にやけた口元…

棺の中の花嫁

「ちょっと、コレ、どういうことなの?」 チャーリーが毒づいた。 オレも同じ感想だ。「ねぇ?どういうこと?」 どうやらチャーリーの独り言じゃないらしい。オレに聞いてきた。「オレに聞くなよ」 ビジョンが見えた。その直後の襲撃だった。 背後の岩に着弾…

Noisereduction

その街の夜は喧騒に溢れていた。 ネオンが忙しなく明滅し、雑踏と排気音とビートの効いた音楽が綯い交ぜになって暗闇を追い払っていた。 不夜城の人混みの中を縫うようにして男は歩いていた。 やや広くなった額に、黒髪の中に見え隠れする白髪。年の頃は四十…

SHADOWLESS

昼間の色街は何故か白茶けて見える。わたしは、そんな誰かのセリフを思い浮かべながら狭い路地を歩いていた。前にはターゲット。視界の悪いごちゃごちゃした街では、1つ交差点を挟むだけでターゲットを見失いそうになる。周囲には誰もいない。あまり近づき過…

奈落の王

「あら、元カノの写真か何かですかぁ?」 コアスーツに袖を通しながらリリスが写真を覗き込んだ。 オレは軽くリリスを睨みつけ、個人用情報端末—ワイズド・ターミナル、通称Wizdom——のウィンドウを閉じた。 「人のプライバシーを覗き込むのはいい趣味とは言…

龍の泉-7

祠に手を合わせて聞いてみたけれど、やっぱり答えはどこからも返ってはこなかった。 リカコは思う。やっぱりあのお爺さんの言う通りに龍之介にも聞かなきゃ。 リカコは龍之介が入った小さな水槽を手にして岩場の対岸へと向かった。泉の入り口側から回りこん…

龍の泉-6

見たこともない光景が目の前に広がっていた。 5月の強い陽射しは青々と茂った常葉樹にその殆どを遮られ、その間からこぼれ落ちた光は、フィルターを透過したかのように緑と青を強めている。彩られた光はこんこんと湧き上がる泉の水面に落ち、仄かに青いきら…

龍の泉-5

アキラが練った作戦はこういったものだった。 まず、イノシシが出た見晴らしのよい丘から、100メートルほど下った所にゴールネットで罠を作る。アキラは昨日下山する時にしっかり地形を確認していたようだ。 そこには竹林があり、吊り上げ式の罠を作るの…

龍の泉-4

「我々の名誉を挽回するには、リベンジしかないのであるっ!!」 月越山からボロボロになって帰って来た明くる朝、アキラはユウトの部屋で立ち上がってそう叫んだ。 龍ヶ渕を目指した月越山アタックに挫折した三人はイノシシの強襲に遭遇、撤退を余儀なくさ…

龍の泉-3

目の前に青空が広がっている。視線を下に移すと、そこにはいつもは自分たちが生活している街が見下ろせる。三人が住んでいる幟町(のぼりまち)だ。その幟町の真ん中を横切るようにして龍玉川が流れている。三人の足元、山の麓から緩やかなカーブを描いて龍…

龍の泉-2

きっかけは、リカコだった。 四月も半ばを過ぎて部活の勧誘活動もようやく一段落した頃に、アキラとリカコは共同で宿題をやっつけるためにユウトの家に遊びに行く習慣を復活させた。 小学校から続いていた習慣で、勉強が出来るユウトのノートを二人が自分達…

龍の泉-1

強い日差しが照りつけている。下生えの草花は青々として茂って、常葉樹から溢れ落ちた木漏れ日が斑に色を飛ばしている。 5月の連休明け。もう夏に入れてもいいのではないかと思えるほどの真っ青な空の下、月越山の遊歩道を三人が登っていく。 先頭を歩くの…

Deeper - 4

「お邪魔しまぁす」腕を鳴らしながら部屋の中に入るとゲジゲジの姿が見えない。どこいった?「このクソシロクマゴリラが……覚えていなさいよ」誰も入居していない部屋の片隅からゲジゲジの声が聞こえる。匂いもそこにいる。が、姿は見えない。なるほど。新型…

Deeper - 3

キリッー。窓の外から聞こえる微かな機械音。目の前の女もオレに銃口を向けたまま振り返る。迂闊にも程がある。が、動けない。何者かに見られている。いや、この視線はこの女のものだ。しかし女は窓の方を見ている。これは一体……。次の瞬間、窓ガラスが割れ…

Deeper - 2

参ったね。こりゃ。 オレは黙って両手を上げる。もちろん、無抵抗だから撃つなよという意思表示だ。 「身の回りのもの、使えるものは全部武器にしろ。でしたっけ?隊長?」 にっこり微笑んでいるものの、目は全く笑ってはいない。そしてオレの胸にポイントし…

Deeper - 1

その朝、オレはとてつもない二日酔いで眼を覚ました。 いつものオレの部屋。いつもの日差し。いつもの時間。だがオレの頭の中では巨大なドラが重々しく鳴り響いていた。 「ちくしょ……」 悪態をつきながらベッドから身を起こす。 「おはよう」 オレの隣でやけ…