White Noiz

諸々。

プログレッシブ・ロックの巨星、墜つ。

メタル界でも屈指のベーシスト、ビリー・シーンがRUSHのドラマー、ニール・パートの訃報を告げた。

呆然とした。
頭が真っ白になった。
ショックで言葉に詰まった。
そして、ほんの数分だけ泣いた。
Dream Theaterのマイク・ポートノイと並んで大好きなドラマーだった。
ニールは大好きだったドラマー、"渡り鳥"ことコージー・パウエルと同じ、ヴァルハラの英霊達の列に加わった。

 

RUSHはカナダで1968年に結成されたバンドだ。
プログレッシブ・ロックの先駆者という位置づけになる。
1974年にデビューし、この前後にニール・パートが加わっている。
それ以来、RUSHのメンバーはボーカル兼ベースのケディ・リー、ギターのアレックス・ライフソン、そしてドラマーのニール・パートという3ピースバンドとして、2018年に完全に活動を停止するまで不動のメンバーとなった。

どんな音のバンドかというと、他に類を見ないほどのオリジナリティ溢れる音だと思う。
初期と1980年以降の音がかなり変わっており、どちらもプログレッシブ・ロックなのだからややこしい。
初期のプログレとは「大作指向」というヤツだ。
ギター、ベース、ドラムという3ピースバンドなのに随所にキーボードを多用し、壮大で長尺な楽曲を特徴としていた。
長尺な楽曲をいくつかのパートに小分けして、パートにサブタイトルをつけていく。
Dream Theaterでもおなじみの手法のオリジナルはRUSHだったりする。

1980年代に入り、音楽業界はMTVに沸いた。
ミュージック・ビデオ用にコンパクトでキャッチーでポップな楽曲が求められた。
RUSHは器用にもそのスタイルに対応していく。
キャッチーでポップでコンパクト。にも関わらずその中に超絶技巧を織り交ぜていくという驚異の方法論でアイデンティティを保ち続けていく。

その強烈なイメージは1980年代後半から活躍した数々のメタルバンドに影を落としていく。
Queensrychを筆頭に、METALLICA、Annihilator、VOIVOD、そしてDream Theater。

オレがRUSHというバンドを知ったのは1989年。
メタル界隈はまだまだスラッシュメタルに傾倒してはいるもののやや飽きられた感があり、オルタナやグランジの台頭ももうちょい後の事となる「ちょぃ隙間」の時代だった。
噂になっていたDream Theaterの1st Album”When Dream and Day Unite”を買い、その高い演奏技術と"The Ytse Jam"の楽曲センスに衝撃を受けたものの、ボーカルのチャーリー・ドミニシのハイトーンだけどちょっと線が細いよねという部分が気に入らず、「ふーん」で終わってしまった。
このアルバムの解説に、プログレという文字とRUSHの影響という文字があった(ような気がする)。

続いて、Dream Theaterは1992年に2枚目のアルバム"Images And Words"をリリース、メタル界隈に衝撃を与えた。
このポップでキャッチーなメロディと難解なプログレの高次元の融合は、「事件」以外の何ものでもなく、時代はスラッシュからプログレの時代に移行するか?と思われたが、海外ではプログレ・メタルはDream Theater以外あまり盛り上がらず、そのままオルタナやグランジの波に飲み込まれることになる。
この辺は今回の記事とはあまり関係ない話になるので、いずれ別の機会にでも。

本格的にRUSHにドハマリしたきっかけはAnnihilatorが1993年にリリースした3枚目のアルバム、"Set The World On Fire"の中で"Sounds Good To Me"という、このバンドにしては異様にキャッチーでポップな楽曲を披露した時だった。

同時期にVOIVODはPink Floydの影響を色濃く受け継いだ"Angel Rat"を1991年にリリースした後、そのプログレッシブ・ロック色を残したまま、今度は楽曲をRUSHに寄せて1993年に"The Outer Limits"をリリースした。

更に同時期、Queensrychは商業的に大成功を納めた"EMPIRE"の洗練されたHR/HM路線から更に深化し、プログレッシブ・ロック的なアプローチを採った"Promised Land"を1994年にリリースした。

METALLICAのプログレッシブ・ロックへのアプローチは以前から見え隠れしており、"One"や"Call of Ktulu"などで確認できる。

この時点で、オレは1993年にリリースされたRUSHの"Counter Parts"を購入。
このアルバムの1st Trackの"Animate"に衝撃を受け、そのまま沼にどぷんと頭まで浸かって、RUSHのアルバムを遡って買い漁ることになった。

それ以来、事あるごとにRUSHは聞き続けている。
RUSHを聞いていると、不思議と元気と勇気がわいてくる。
その音は、優しく、力強く、シンプルなくせにテクニカルでスマートだ。
個人的には、1980年代以降のRUSHが好きだ。
だけどそれは、ドハマリした時代がその時期だっただけの話で、もちろん初期の楽曲が嫌いだという話ではない。
どのアルバムを聞いても、どのカヴァーを聞いても素晴らしい。
好みでいけば、沼にハマったきっかけとなった"Counter Parts"か"Roll The Bone"を強くオススメするというだけの話だ。

キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、イエス。
もちろん、この御三家が嫌いだというわけでもない。
だけど、オレはRUSHが好きなのだ。
プログレといえばRUSHなのだ。
プログレというと難解で長尺でちょっと退屈なイメージもあるかもしれない。
だけど、そういう人にこそRUSHを聞いて欲しい。
おそらく、そんなイメージは吹っ飛ぶ筈だ。