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White Noiz

諸々。

Deeper - 3

キリッー。
窓の外から聞こえる微かな機械音。目の前の女もオレに銃口を向けたまま振り返る。
迂闊にも程がある。が、動けない。何者かに見られている。いや、この視線はこの女のものだ。しかし女は窓の方を見ている。これは一体……。
次の瞬間、窓ガラスが割れて部屋の中に何かが投げ込まれた。フローリングの上に転がるスプレー缶のようなもの。咄嗟に目を逸らして床に伏せる。
閃光。
しかし、音もしなければ周囲に散らばる榴弾片もない。白い世界が瞼越しにも網膜に焼き付く。
フラッシュバンだと?!
女の悲鳴が聞こえた。閃光を直視したか。直視を避けて床に伏せたオレですら視界は白く封じられている。直視ならば失明の危険性もある。あの女からは逃げられる。そう、逃げるなら今のうちだが……。
しかし、女もろともフラッシュバンの洗礼を受けたってことは、襲撃者と女は仲間じゃないって事だよな?ということは第三者からの襲撃?
閃光弾が放り込まれた逆の窓からガラスの破壊音。やっぱり逃げられねぇか。
全身の筋肉をたわませて跳ぶ。モーターのような機械音。そしてばら撒かれる銃声。
壁。体勢を入れ替えて壁を両足で蹴る。再び跳躍。今度は天井を蹴って窓の外に。
女の悲鳴は聞こえない。銃弾が肉を抉る音もない。逃げたか。だが視界を奪われているのにどうやって?
知るか。今はそれどころじゃない。
膨張したかのように筋肉の塊と化した身を丸め、割れたガラス戸に突入する。被害は甚大だ。誰に請求していいものやら。ベランダの手摺を蹴って方向転換をすると上階の手摺を掴み、更に身体を上へ押し上げる。
「クケケケケケケケケケケケケ」
耳障りなモーター音と共に不気味な笑い声が追って来る。さぞかし声の持ち主は変態的な姿をしているに違いない。今はホワイトアウトした視界のお陰でその姿を見ることはできないが。
「待ちなさいよぉ〜」
おい、変態声な上にオネェ言葉かよ。
目は見えなくても移動することはできる。上階のベランダへの手摺の距離は等間隔。おおよそのところは身体で覚えている。あとは手摺を掴むタイミングの問題だ。それよりもなによりも、問題なのはこの目が利かない状態のまま戦闘になる事だ。相手も状況も分からないまま盲目のまま戦うなら、このまま逃げに徹したいところだ。
軽機銃の連続した銃声。真っ白に伸びた体毛が僅かな風の変化を察知して危機を伝える。オレは横っ飛びにマンションの壁面を蹴り、更に上階を目指す。
あと10秒。
「アタシの真っ赤に焼けたロケランをアンタのケツにぶち込んでやるんだから……」
変態的だと思っていたが、こいつは本物の変態じゃねぇかよ。
変態が完全に完了し、フルパワーが使える。フラッシュバンで潰れた視界が回復する。そして、屋上に到達する。あと8秒。
「待ちなさいっつってんでしょう!シロクマ野郎!」
偏執的でいて甲高い癪に障る声。変態にシロクマ野郎呼ばわりされる覚えはねぇ。
あと5秒。
「うっせぇよ」
吐き捨てて最後の手摺に手を伸ばす。その瞬間を狙って銃弾の掃射。
「アタシの腕の中に落ちて来なさい、シロクマちゃん」
マンション最上階ベランダの手摺をスルーし、ベランダの庇に手をかける。1秒程足りないがなんとかなんだろ。ベランダの庇にかかった全体重を両腕で支え、強引に方向転換する。となりのマンションの壁面へ。
見えた。
やたらと細長い手足。肘から手首にかけてと脛に無数の車輪。それらをモーターで動かして壁面を登っているのか。どうやって壁面にへばり付いているのかは謎だがそれにしても異様な姿だ。四つん這いよりも低く構えられた土下座のような姿勢。肩口には軽機関銃とロケットランチャー。ヘンテコなボンデージ風デザインの黒い合皮ファッション。まるで出来損ないのゲジゲジの玩具だ。
シロクマじゃねぇよ、ゲジゲジめ。
隣のマンションを利用した三角飛び。壁面から渾身の力で跳ぶ。案の定、ゲジゲジ野郎はオレの姿を見失ったようで車輪を止めて屋上の方を探している。その背中へ。
「おるらぁっ!」
スピードと体重を思い切り乗せて組んだ両手を振り下ろす。
メキャッ。
軽金属がひしゃげるような音をたてながらゲジゲジ野郎の背中がエビ反りに曲がる。
ゲジゲジの左肩に乗っかっているロケットランチャーの砲筒を右腕で掴み、左腕でベランダの手摺を掴んで姿勢を固定する。そのまま掴んだ砲筒をぶん回してゲジゲジをマンションの壁面へ。
ベシンッ。
なんだか蛙が鳴いたような酷い悲鳴が聞こえたがキノセイに違いない。
今度は腕を振り上げ、階上の窓から部屋の中にゲジゲジを放り込む。派手な音をたててゲジゲジが部屋の中に投げ出される。それを追いかけるようにしてオレも部屋の中へ。